第13回若手研究会

第13回目若手研究会を下記の通り開催しました。

日時:2014年10月25日(土)午後3時半~7時
場所:大東文化会館401教室

報告者① 平田晶子(東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程)
「越境する旋律、呪文、エスニシティ:東北タイ・ラオスのプータイ、ソーのラム歌をめぐる歌唱・宗教実践の一考察から」

報告者② 真辺祐子(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程)
「紛争解決と賠償金に関する考察:タイ南部国境地域における補償政策の展開」

参加者:12名

【当日の様子】
平田氏のご報告は、モーラム歌が国境という政治的指標によって規制されない「ラム圏」において音楽制作産業、宗教実践、民族治療という三つの異なる領域で展開される現象に注目し、タイ東北地方の村落調査や音楽産業主要都市での調査データに基づいて行われた。 ラオの象徴ととらえられてきた「モーラム芸能」に関して、タイ系プータイとモン・クメ ール系住民の暮らしにみるラム歌唱の営為を明らかにした。
本発表では、タイやラオスの国境に規定されず、娯楽、宗教、治療などの場でラム歌唱が行われる圏を「ラム圏」と定義した。まず音楽産業領域については、ラム歌謡の商品化が進むことでより多くの人々に聞かれるようになり、旋律が聞きこまれるようになったと同時にエスニシティの資源として利用されている点が指摘された。民族治療の領域については、多元的な医療行為の中でも、呪文的なラム歌を利用したヤオ民族治療がなお行われていることが述べられた。そして宗教領域では、アニミズムや祖霊供養にラムの旋律が存在し、儀礼の所作を形成していることが指摘された。
フロアからは主に文化圏の定義や文化圏からモーラムをみるという視点、そして「ラム圏」やラムの「世界」という概念の表現について議論がなされた。また宗教センサスから見出せるアニミズムの割合に関する質問から、「宗教」というくくりよりも「信仰体系」というくくりに注目すべきでは、といった意見も述べられた。民間治療、宗教儀礼、音楽産業という三つの領域に関しては、その重なり方や体系化された時期についての検討、議論が行われた。

 真辺氏は、タイ南部国境地域における暴動に対する軍事作戦の中で起こる人権侵害に対し、司法的な損害賠償と金銭補償政策がどのように行われているかについて、主に 2014 年8~9 月の現地調査で得られた情報をもとにご報告された。
パタニ県での住民の射殺事件の事例から、南部国境地域におけるタイ軍の軍事展開と治安関連事件の捜査の実情が示された。事件後の司法プロセスに関して、不法行為者が軍人の場合刑事訴訟が難しいこと、民事訴訟では時間がかかりすぎること、弁護士費用の問題など、司法プロセスにおける公平性の限界が指摘された。金銭補償政策では、インラック政権期に拡充された政府機関 SBPAC(Southern Border Provinces Administrative Center) による「暴動によって影響を受けた者」に対する補償政策に着目し、多額の補償金による住民への影響が述べられた。こうした補償政策によって、構造的に住民の不満が分散され ることにより、反体制運動、独立運動が抑制されているのではないかという仮説が立てられた。
フロアからは「不満」の中身、対象についての質問があがり、南部とバンコクとの差別意識に基づく「不満」による部分も大きいのでは、という指摘も述べられた。「補償政策」という用語について、これは因果関係の説明を伴わず司法も介入させない金銭的解決であり、「見舞金」が適切ではないかという意見が出された。「暴動側」や「反政府組織」という呼称の中立性についても検討された。また、博士論文構想の中での本発表の位置づけに関して、住民側の意識からみるボトムアップの観点と、タイ政府の南部政策という構造側からの見方をつなげる方向性についても議論がなされた。
(文責 宇戸優美子)

当日の写真1

平田氏の報告

当日の写真2

真辺氏の報告

当日の写真3

会場の様子