第2回若手研究会

日時:2011年2月12日(土)午後2時~6時
場所:東京大学社会科学研究所1階第1会議室

報告者(1):福冨渉(東京外国語大学大学院 総合国際学研究科修士1年)
『「私」ではない「私」に向かうタイ文学:プラープダー・ユンの作品における他者との関係性/カーニヴァル』」
【コメンテーター】平松秀樹(大阪大学招聘研究員・非常勤講師)

報告者(2):秋庭孝之(サクラインターナショナル株式会社/チュラーロンコーン大学文学部タイ研究科修士課程修了)
「グローバライゼーションと97年以降のタイ映画:独立系映画を中心に」
【コメンテーター】坂川直也(京都大学アジア・アフリカ地域研究 研究科博士後期課程)

【研究会案内】 幹事・遠藤環
 今回は、現代の「文化・メディア」に焦点をあて、お二人にご報告頂きました。修士論文でタイの現代文学を取り上げる予定の福冨さん、チュラーロンコーン大学で、タイの映画論に関する修士論文を提出した秋庭さんの二人です。日本に紹介される機会も増え、若者を中心に多くのファンを獲得している文学や映画作品が多数出て来ているにも関わらず、研究はほとんどされてこなかったように思います。

【当日の様子】
 2回目を迎えた「若手研究会」のテーマは、タイの文学と映画である。テーマと報告者の魅力もあって、当日は学会会員以外の若いひとびとが参集した。また、平松氏や坂川氏、玉田芳史氏などが、わざわざ関西から足を運んでこられ、平松氏と坂川氏の両氏には、コメントの労をとって頂いた。
 最初の報告は、東京外国語大学大学院のタイ研究のエース、福冨氏である。学外での学術報告は初めてということで、スーツにネクタイというフォーマルな格好(ネクタイは外してもらいました)。最初はかなりの緊張ぶりだったが、そのうち話に熱がこもり、12枚のレジュメと共に、大変充実した報告となった。
 テーマは、タイ若手作家グループの旗手のひとり、プラープダー・ユンの「ポスト・モダーン小説」の読み解きである。プラープダー氏は、「ザ・ネーション・グループ」の創立者のひとりで、かつてiTVの名物キャスターであったスティチャイ・ユンの息子。日本の漫画やアニメーションで育った新世代であり、村上春樹作品の熱烈なファンでもある。国 際交流基金の招聘などで、何度も来日している。福冨氏はそのタイ語能力を買われて、プラープダー氏の通訳を幾度か務めたこともあり、小説を通じてだけではなく、本人の思想に直に触れるという、貴重な機会も得ている。
 報告の内容は、3部構成。(1)プラープダー・ユンの2002年東南アジア文学賞受賞作への評価に対する疑問、(2)Facebookに集う人々の引き起こす「カーニヴァル」、(3)プラープダーの2008年の作品内に他者との新たな関係性を見出す、の3つ。ポップカルチャーの一部としてもっぱら紹介され、文学作品として正面から議論されていないことに不満をもつ福冨氏は、『二十時の不連続性』をとりあげ、ポスト・モダーン、カーニヴァル、「私とあなた」、変身などをキーワードにして、作品を読み解く。タイ人の批評だけではなく、リオタール、ラトゥール、中沢新一、鈴木謙介などの理論や着想を紹介しながら、独自のプラープダー論を展開し、「彼の作品に見いだせる未来への可能性を提示することで、タイ文学・文化研究の新たな可能性について提示したい」と締めくくった。
 報告のあと、タイ文学・文化研究を専攻する平松氏がコメントを行った。平松氏は、外国の文学を紹介し研究する場合の「心がまえ」として、まず丁寧に作品(テキスト)の紹介を行うことが大切だと述べ(福冨氏の場合、やや解釈の方が先行している)、そのあと、タイ文学・文化における日本(漫画、小説、テレビアニメなど)の影響を含めて、幅広い視点から議論を行った。
 次に登場したのは、現在、民間企業で働く秋庭氏のタイ映画論である。タイ映画については、現在、東京外国語大学の宇戸清治氏が『タイ国情報』(季刊)で連載を行っているが、秋庭氏はとりわけインディペンデントの作家による映画作品に焦点をあてて、報告を行った。報告の内容は、(1)自己紹介、(2)タイ映画史とタイ映画にみる政治、(3)1980年グローバライゼーション:タイのアイデンティティとThainessの危機、(4)1997年以降のタイ映画にみるThainess(大衆映画にみるThainessと、独立系映画にみるThainess)、 (5)1997年以降のタイ映画にみるタイとの関係性、(6)結論:グローバライゼーションと97年以降の独立系映画および作家。以上の6部構成である。
 1997年のアジア通貨危機を契機に、テレビCMの収入が激減した広告業界が映画界に進出し、それが引き金となってタイの映画は新たな局面を迎える。そして、97年以降のタイ映画では、大衆映画、独立系映画を問わず、「タイらしさ、タイとは何か」が問われることになり、このテーマが、歴史ドラマを通じて、あるいはタイの周縁に生きる人々の生活を通じて描き出される。そういう秋庭氏の主張が、多数の映画のさわり(動画)の部分の紹介も交えて説得的に展開された。そして、今後のタイの独立系映画は商業化に向かうのか、そして、「タイらしさ」ではなくコスモポリタン的なアイデンティティを追究する 映画に向かうのかという問いかけで、報告を締めくくった。
 コメントはベトナム映画論が専門の坂川氏。東南アジアやアジアの映画論のテーマが現在、どのようになっているのか適切な整理を行ったあと、タイ映画をアジアの中にどのように位置づけるのかという視点から、報告者に劣らぬ力のこもったコメントがなされた。
 福冨氏、秋庭氏の報告に対しては、フロアからも多数のコメントがなされ、終始にぎやかであった。また、懇親会にも20名以上の人が参加し大盛況だった(文責:末廣昭)。

写真1:報告を行う福冨渉氏とコメンテイターの平松秀樹氏

写真1:報告を行う福冨渉氏とコメンテイターの平松秀樹氏

写真2:熱心に報告を聞く参加者

写真2:熱心に報告を聞く参加者

写真3:報告を行う秋庭孝之氏とコメンテイターの坂川直也氏

写真3:報告を行う秋庭孝之氏とコメンテイターの坂川直也氏

写真4:報告を聞く会場の様子

写真4:報告を聞く会場の様子